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猥褻研究会雑誌第一号

(非売品)

大正五年六月発行 半紙半截二ツ折小形本

「モノは云ひやうによつて角がたち、筆も執りやうによつて軟が硬に成る、美といひ醜と云ふも筆次第、猥褻研究といふ文字に驚き給ふナ

さて世間には種々な人物があるので面白いのだ、予は過激な議論を唱へる事と、猥褻な記述を好む事との二つが癖でこれは予の長所であり又短所であるのだ、過激な議論を唱へた科としては四回入獄した、猥褻な記述のためには三四十回程も罰金及び印本差押の処分を受けた、近頃は過激な議論を公表する事は中止の体であり、又猥褻な記述を公表する事も先年来イヤになつて、近年は専ら猥褻のマジメ研究をやって居る(中略)

世間には予と同じやうに、猥褻のマジメ研究をやつて居る人々が多くあるのだから、其人々等と結合して天地陰陽の妙理を闡明したいと思ふのである、「猥褻研究会雑誌と云ふのだから、何でも挑発的のギワドイ事を書いてあるのだらうなど、想像するやうな人々は、此極めてマジメなのに呆れるだらうが、そんな人々の入会は真ツ平御免を蒙つて、真摯に色道研究をせられる学者態度の人々百名ばかりの会員を得たいと思ふ、それでナルベク各府県に二名位宛の熱心家を得て、其人々等と連絡して地方的歴史的の材料をも蒐集したいのである、そして所謂醜事を美化せしめて以て学術上の利益と成り、処世上の興味と成る働きをしたいのである、と云ふのが本会雑誌の主義綱要であるから、風俗壊乱の記事は一切載せない」

これが本誌発行の要旨である、そして其内容は

神秘と猥褻、猥褻の字義、陰陽の別は一と二、且也は両性の象形文字、肉交の収賄罪、便所楽書の心理、男子の証明物、股部に白粉、婉曲なる広告文、猥褻見世物譚、夫婦の契り餅、色界浪浸集(四節)、質疑等

これを半紙半截の二十頁に印刷して絹絲で綴ぢた小形本である、内務省へ出版届と納本二部とを出すと、翌日直ぐに頒布禁止印本押収と来て、凡そ五六百部ほど持ち去られたそれで公然何処へも郵送する事ができず、印刷費四十円ばかりの損失であり、猥褻研究などいふ題名は、其内容の如何に拘らず、発行すれば毎号禁止するとの内意を聴いたので、「猥褻研究会雑誌」号外といふ四頁の印刷物に毒言を吐き散らして発行し、是亦初号限りであつた