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政治

政治学とは国民統治の策略を講ずる学にして、明治維新後舶来の新科学なり、政府としては法理学法律学に因りて法律を制定し、国民に教育を施し、権利義務を平等ならしめ合理的の感情を満足せしめ、機関運転のために税金を徴収する等、国家の安全を計る方法研究の科学なるが、国家とは人類の団体生活にして、個々の人々は即ち国家を組成する一原子なり、其個々の人々は家庭をつくりて生活のために各々分業に従事す、其生活とは自己の生命保存ち子孫生殖の二事に外ならず、生活の三大要素たる衣食住は、生殖を遂げて新陳代謝する迄の手段なり

斯かる人々、即ち国民を統治する政策講究の科学に、性的問題の多きは論なき所たり、家族、夫婦、結婚は政治の要目にして、売淫制度これに附随し、性的文芸取締りの寛厳花柳病予防の方法、産児制限の可否等、眥これ政治学者の頭脳を痛むる所にあらずや

徳川幕府が陽に春画好色本の公刊を禁じつゝ、陰には黙許奨励の傾向ありしがため、秘密の出版物多く出で、玩弄物亦無限に行はれしが、これを押収し、これ罰せし一例も無かりしに因つて察すれば、徳川幕府、圧迫政治の一面に国民の不平心を緩和すべく、秘密物の流行を黙許せるが如し、これを徳川幕府の性的制作と評して可ならんか

諸外国にも此類例ありしならんと想察すれども、寡聞にして未だ知らず

明治二年二月二十一日の「東京府達」に曰く(町内の組々世話掛名主共に布達せし条文)

「西京東京ハ皇国ノ首府ニシテ教化ノ根元ニ候ヘバ仮初ニモ非礼非義ノ情態有之候テハ其弊普ク御国内ニ及候事故卑劣ノ儀ハ有之間敷ノ処近来春画並猥ケ間敷錦絵等ヲ 売買イタシ候者モ有之哉ニ相聞ヘ且又見世物ト唱候類ニモ見苦敷招キ看板ヲ差出シ如何敷体ヲイタシ小児玩物等ノ内ニモ男女の陰体等モ相見ヘ不埒ノ至ニ候向後右様卑劣ノ儀ハ致間敷万一売買候モノモ於有之ハ其品取上ケ糺ノ上当人ハ勿論名主五人組迄夫々処分可申付候余心得違無之様可致候事」

(右の見世物とは例の「それ吹けやれ吹け」をいふ)

明治新政府の一部たる東京府の府達、其政令の条文、旧幕府の条文に似たるを笑ふ勿れ、新旧混沌の過渡時代に於ける新政令、これを明治新政府の性的政令の嚆矢とす