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地誌

日本の各地にある男体山女体山、大和吉野の妹山背山、常陸筑波山麓及び伊勢二見浦の女夫岩など云ふは、自然の地勢又は厳石を生殖本位の男女に比喩せる称呼なり、是等は未だ卑猥の程度に入らずとするも、此外にイカヾハシキ事少しとせず、文学博士喜田貞吉先生著「読史百話」に曰く

「十八女、地名には随分滑稽なのもあるが、是は悪戯も甚しい、所は阿波の国那賀郡加茂谷村の大字で「十八女」と書いて「さかり」と訓ひ、所謂鬼も十八の俗諺から起つたものであらうが、聞き様によりては滑稽を通り越して卑猥の感を起させる」

雀庵長房の著「さへずり草」松の落葉の巻にも「備前の国に十八女島と書てサカリとよます」とあり

数年前(年月失記)の「東京朝日新聞」に「雲の北海道」と題する記事あり、其一節に曰く

「函館から小樽への途中に長万部といふ駅がある、近くの山を又同じ名に称へて既に公認されたものだが、アイヌ語ヲシヤマンベは婦人の局部を意味するのださうである、熊野川を下る時、船子達が指示する奇怪な岩石の名称のそれの如く、アイヌ達の仲間で戯れに云ひ伝へたものが、文字に組立てられ、停車場の名となり、山の名となり、さうして地理の教科書にまで載るやうになつたのである、濠斯太利語のカンガローといふのは何だか判らないといふ意味なのを土人の答へを其侭獣の名として了つたといふのと同じ滑稽であつて、より困つた事である」

元治元年刊行の「越後みやげ」第二編、同国刈羽郡の条

「裸◯(毛に主)石宮 石地駅より一丁程南の海岸にあり、此石海中よりあがりしとぞ、高さ三尺許、めぐり二尺程にして天然に麻羅の形也、宮を建て祭る、近里の娼妓参詣たゆることなし」

「六合雑誌」には越後石地の羅石大明神と書けりという

下野日光山奥の金精峠は、金精大明神に同じき卑語なり

大和天道の羅石山、豊後野津の屁のばjjjjも亦これに類す各地にある「雁田大明神」といへるも紫色雁高(ししきがんかう)の略語なりと「石神問答」に見ゆ

「霊根志」に「摂州大物の浦といふは今の尼が崎なり、大物大権現の社あり、此神体陽石なり」とあり、大物とは大陽根の義なり

相模の扇ヶ谷(やつ)といへる地名のやつ、常陸にて峡間の田をやつ田といへる「やつ」は「やち」の転訛にて元来は卑語なり

「奥州津軽にて草ありて水のある処をヤチといふ」と「俚言集覧」に見ゆる如く、越後にては現に沼沢を「やち」と称し居れり、此語はアイヌ語にて、モト女陰の義なり、故に「やち」を女陰の代名詞に使用し、婦人の腰巻を「やち隠し」と称し、娼妓を「やち売(ばい)」と称するなどの数語ありて現に行はるること京都府警察部編簒の「淫語輯覧」に見ゆ