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言語

大和ことのはと云ふ言語、所謂古黯、廃語、新語、通語、方言、隠語、◯語、其性賀より云へば雅言、俗語、術語、偶語等、之を徹底的に研究せんとするには、当時の社会道徳上にて忌避することをも省くべからずとして

みとのまくはひ、みほと、しゝ、をはせ、つび、しなたりくぼ、皮つるみ、きせはぎ、角のふくれ、ひなさき、おにやけ、ろてん、おそくづ、つがひ絵、金精大明神、五人組、文彌節、帆橋丸

等、数百の語を觧釈せるもの多し、其書名のみを一々挙げんにも数頁を要すべし

又穢語にはあらずとするも、「竈」の「ヘッつひ」ば「へつび」にて「への都毘」といふ義、「比目始(ひめはじめ)」の比目は飛馬にあらずして「姫」なりとの説、左中将兼家の三人妻を「三つめ錐(きり)」と称する解、女陰の通称には重音多き事等、語原の推究に於て卑猥に渉ること又枚挙に遑あらず

太田南畝の「四方のあか」に「すばしりの臍のなまくさきをいとはず」といひ、粹川子の「洒落文台」に「めつたに前をあけてくれるな、温気の時分、宇津の宮の神主ときては叶はぬ」といふなど、隠語使用の古文籍亦多し

陰名研究の専門書として故松岡調の「陰名考」一巻あり、明治十七年刊行さる、同子は皇典講究所第一期の最優等卒業生、考古学者として著名の讃岐人なり、此前、無名子の「麻羅本考」一冊あり、内外の古典に拠りて考証せるもの、該博精通の学者のすさみなること察せらる

我国古今の言語中、男女性的の淫語に属するもの二千に近かるべし、之を学者として研究しつゝある人亦少からず

元治元年、横浜伊勢屋幸吉出版の異本「横浜みやげ」に異国語として数十列挙せる中

軍をぼんぼん 大便をてれつき かげまをかすからう

気に入りたるをよかよか

など記せり、何人かの戯語を外国語と誤解せしならん

往年「エビスビール」を露西亜国へ輸出せしに、嘲笑を受けて返送されたりと、其理由は露国にて女陰を「エビス」と称するがためなりと聞けり、大正十一年三月、東京不忍池畔にて開きし平和博覧会の南洋館にて、南洋独特の珍料理店を出し、其品名掲示に馬来語を日本片仮名にて記せる中、×ンコノケ(一品金十錢)ボヽル(一品金二十銭)とありしこと時事新報、東京朝日新聞社等に見えたり