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天文

独逸にては日を女性として「ヂー、ゾンネー」、月を「デルモント」と称し、仏蘭西にては日を男性として「ル、ソレイ」月を女性として「ラ、リユヌ」と称し、日本にては日神を女神とし月を桂男と称するなど、日月を男女に配するは非科学的にして、陰陽を以て天地具象を律せし支那思想に均しき迷想なり、是等は本著の範囲内に入らずとするも、ヤヽ学説に近き卑褻論は、天の運行と地人男陰の性理とが相関係せりとする事なり、文化頃山片蟠桃著「夢之代」に曰く「天地ノ気ハ一年ニシテ一呼吸ス、夏至ヨリ冬至マデ百八十日の間、北極ノ気ハ北ヨリ推シテ南ニ行ク、故ニ常ニ西北ノ風吹キ、日輪モ其気ニ推サレ段々南ニ移ル、スべテ物皆随ツテ推移サル、天地ノ一呼ナリ、此ノ突ク息百八十日ニシテ尽レバ引息ト成ル、冬至ヨリ夏至マデ百八十日ノ間、南極ノ気南ヨリ推シテ北ニ行ク、故ニ常ニ東南ノ風吹キ、日輪モ其気ニ推サレテ段々ト北ニ移ル、物皆随ッテ推シ移ル、是天地ノ一吸ナリ、都合一呼吸備ハリ、一年ト成ル、此ノ如ク南北ヨリ強ク推スコト故ニ丸キ天地左右ヨリ推シテ遂ニ転ズ、故ニ天ノ運行常ニ東ヨリ西ニ転ジ、左旋シテ息マズ、此ノ如ク天地ノ間ニ生ズル物、皆左旋セザルコトヲ得ズ、金銀ノ蔓モ東西へ延ビ、スベテノ蔓草アサガホ.葡萄、忍冬ノ類、皆左旋シ陰茎マデモ左旋ノ姿ナリ」

山崎美成の著書にも此全文を引けり

天に男女の二星ありて、一年に一度(七月七夕)天の川を渡りて会合すとの俗説ありて、川柳点にも「秋一の出合牽牛織女なり」、「一とせに一夜は牛の大よだれ」などいへるバレ句あり(秋一とは猥語の春三夏六秋一無冬に拠る、大涎とは羨望の義なり)

最もいやしく聞こゆるは「夜這星」なり、学書の一たる「箋注倭名類聚抄」に曰く(原漢文

「流星ノ飛ブヤ、蕩子ノ女家ニ就クガ如シ、放ニ与波比(ヨハヒ)保之(ホシ)ト名ヅクル也」

「万葉集」の与波比とは約婚の義なり、或は伉儷の字をあつ、モト男が女を呼ばひ、呼ばふの義なりしが、後世いつしか夜這の卑語をあて、終には妹許密行に変じ褌一筋の裸体にて四ツ這の姿とし、星をも其姿に描きたる醜画多し

寛保三年泉州堺の版本「誹諧秋の月」には「門違ひ二星の中 へ夜這星」といへり駄句もあり

「風土心理学」には、月と性欲との関係を説き、男子の性欲は週期的に昇降するものとし、次に「女子の生殖任務は月の変遷に密接なり関係あり、自然的の一月は実に女子の月経の週期たり月なり、其性的興奮は、月経の継続の終れる後に頂点に達し、月経の最初の日及び直前には最も少し」との事につき十余頁に渉りて鈿説せり