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気象

風土と人類との関係が人種の別を生ぜしなるが、此風土の気象、又は時候の寒暖と性欲との関係は「風土心理学」に於ても説く所あり、これを進化学説にては分娩の好季節により自然淘汰の結果とすれども、気象の上より云へば、興奮を促す快活の時候たる春夏には性欲を熾盛ならしむるものとせり

「性欲と名付けらるゝ生殖腺の産出を排出し、或は受納せんとする熱望は、季節によりて増減あり、統計の示す所によれば、四月より六月に至るまでは、常に懐胎の増加を示し、五月に於て最も著し、此季節は性的活動が特に昂進する時期なりに因るべし」

暖国の文芸物には性欲的作品多く、寒国の文芸物には理智的作品多き傾向ありと聞けり

我国古来の俗諺に「春三夏六秋一無冬」といへるあり、右の学説に適合せる語と見るべきか

又男女の性的関係を「濡れ事」と云ひ「しめやか」と云ひ「おしげり」と云ふは「春雨にしツぼり濡る」の風情にて、天の気象に擬せし語なるべし

端唄「春の夕べの手枕に、しツぽりと降る軒の雨、濡れて綻ふ山桜、花が取持つ縁かいな」

春情といひ、春画といひ、春宮といひ、又俗に「イヤになる」との義を「秋風が吹く」といふが如きも、要するに性欲と気侯との対照なるべし

古褌を「晴雨計」と称する戯語あり、遺尿の残滓又は睾丸排出の脂肪的垢が、乾燥すると湿気を帯ぶるとの差によりて晴雨を予知し得るとするは、気象学に関係あることと見るべし