生物
無牲時代に於ける単細胞生物ゴニウムの分裂生殖は、異性が相接触するに非ざるが故、問題にあらずとするも、其進化せるバンドリナの大形細胞(雌)と小形細胞(雄)とが相呼応し相抱合して生殖作用を企てる事は、猥褻といふ語の生物学的起点なり
泰西学者の説に拠れば、生物は大小合計百七十五万種ありといふ、是等の多数生物は雌蘂雄蘂の抱擁、男性女性の接合によつて繁殖し継続するもの、之を露骨にいへば、生物の存在は猥褻あるが故の現象なり
医学博士長長潜先生の談として、曾て新聞紙上に載する所の記事中、左の一説あり、題は「生物学上から見た貞操問題」「社会制度の上から云つて貞操を無視する事の出来ぬは勿論で、離縁とか将来の不幸を生じ易い恋愛は出来る丈け避けねばならぬ、が人間各人の間にはそれぞれ異つた境遇の事情もあり、其一方が死ぬと云ふ場合も多くあるので、さる事から夫婦の形式を全く離れた時には、再婚しても貞操を無視したとは云へまい、そんな場合には子供がなかつたり、健康が許すに於ては相当の人を得て再婚する方が寧ろよいので、自分も進んでし、社会も同情をもつて助けたがよいと思ふ、生理学上では種々の議論もあるが、今日一般に認められてゐる処では男女ともに生物学の上から見て、一人一生の貞操を要すると認めねばならぬ理由は何にもない、只再婚に当つて男子に何の変化も起らぬに反して、女子には一時だけ起る、それは男子より受けた生殖素に対して、女子の身体に一の防酸酵素を生ずることである、然しこれは実に一時の現象で数箇月の後は又以前と少しも異らなくなる、故に次の良人によつて生れたる子が、以前の夫の影響を生物学的に受ける事は絶対にない」
生物学の分派たる優生学には生殖革命の方法あり、優生学とは、生物進化の原則に基き、悪遺伝を除去して良遺伝を保存せしむる新科学、即ち人工的にて優等の生物を造る新科学なるが、露国の生物学者イワノフ氏の発明にかゝる良種馬の精液を或る方法にて採取し、其精液を牝馬の子宮内に注射して妊娠せしむること行はれ、探取せし一回の精液を二十頭の牝馬に注射し得るの余裕あり、其結果良好なりしがため、犬羊にも此孳尾術を利用し居れりといふ