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社会

此「社会」といへる語は、神社の境内に会合するの義なりと説く者あり、其是非は知らずとするも、鎮守の森が男女媾引の好適場所たりし事は争ふべからず、泰西の社会学ソシオロジーは共同生活の世態史として組織されたるもの、野蛮より文明に進歩せる経路を説明せる科学なり、此科学にも本書の材料少しとせず

未開時代に於ける蛮民の争闘、甲部落民と乙部落民と戦ふ際、敵軍鏖殺の大惨事を敢行せし事もあれど、婦女を戦利品として収容すべく「女子であつて降伏する者は赦してやれ」と令するに対し、其殺戮を免れんとする女子は、裸体に成りて陰部を示し「ワレは女子である」と叫びしなり

予は往年「猥褻風俗史」の総説に左の如く記述せり

西哲進化論者の説に拠れば、男女が公然交接するを猥褻の行為なりと云ふは、原人時代に於ける生存競争上の習慣が、道徳的観念を生ずるに至りし結果なりと論じ、男女の配偶は子孫蕃殖の必要より起りし天法にして、これ人倫の大道なり、人類が飲食し声語すると同じく、房事も亦公然行ひて不可なきに、之を恥づべき事として秘密に行ふは、闘争掠奪を事とせし野蛮時代の原人が、他人に婦女掠奪の機会を与へざらんとせしに基くなりとして「他人に羨ましむる交接の如きは、決して公けに為さゞりしなり、其公けにせざるは、仙人に憚り耻づるが故にあらず、之を公行する時は、他人に藉すに掠奪の機会を以てすればなり、斯く防禦上より出たる習慣終に後世に伝はり、防禦の必要なき今日にては、一種格別の道徳感情を生じて、之を公行するを猥褻なりとするに至りしならん」と説けり

「裸体にて恥ぢざりき」は原給民族の常習なれども、後に女の裸体を醜なりとするに至りしは、女の裸体は異性の淫情を挑発するが為めなり、新婚旅行の名は美なれども、掠奪結婚者が敵の奪還を畏れて逃避せし野蛮時代の遺習なり

社会学書に「初夜権」といへる語あり、酋長、神主等が其管内の妙齢婦女が、他へ嫁する前、婦女の貞操を破る習俗の行はれたる事、其政教的人身御供を強制せし特権をいふ

父女相姦、母子相姦の実例を説くもあり、又「オリノコの印度人は、双生は其母の姦通せし証拠なりと妄信せり、蛮人の生殖の理に暗き亦知るべきのみ」と「族制進化論」に見ゆ、雑婚史といひ、性欲発逹論といふも斯学の範囲たり