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警察

犯罪人搜査と其検挙、及び行政事故にいつき、滑稽に近き猥談多し、夜陰巡邏の途中、怪しと認むる戸外に立ちて耳を◯つれば、賭博にも人殺しにもあらざるを聴き、公園樹陰の暗中に黒影を認め、私娼窟への闖人、春画密売の押収、溺死婦人の引揚等、警察官吏の職務には意外の煩累多し、降つて・警察学校の教習に於ても、需に是等の臨機処置法を講ぜりと聞けり

大正十二年二月発行の某新聞に記せる一事を左に録す

「女賊なにがしを捉へた刑事が煙草盆をまたがせて、そのトタンに下へ落た金を発見したといふ話がなる、今でも芸者娼妓のゐる処や、又は料理店待合などで金が紛失した場合に、警察官が訴へを聞いて取調べるのに当つて紛失金の嫌疑をかけた女の羞恥を感ずるところへ、本人の承諾もなく手指を以て搜査することがある、コレは一般警察官の職権を越えた凌辱行為に該当し、涜職罪として三年以下の懲役又は禁錮に処するといふ新判決が先月下旬大審院第二刑事部柳川裁判長によつて下された、理由は松山市の或る料理店で、遊興中の客が金を盜まれた為め、店主から右の旨を警察に届出で、巡査白方盛一が出張して調べたところ、当時客席に侍した芸妓小菊事村上すめが怪しいといふので、本人の身体を検査したが発見しなかつたので嫌疑を深うし、強て本人の羞恥を感ずる事深きところを捜査した為めに訴へられた、そこで被告の白方巡査は飽迄右は犯罪捜査上必要の職権行為であるとて、松山地方裁判所で受けた前判決を不服として上告し、大審院の審理を乞ふたものだが、結局右は婦女を侮辱するも甚だしい行為で、刑法上の凌辱行為として何等欠くるところなく、全く涜職罪であるとてその上告を棄却した」

此上級審の確定判例は、警察学上の犯罪搜査法に改削を加ふべき一事たりしならん

又大正十一年発行、法学士南渡杢三郎子著「犯罪捜査法」続編の一節に曰く

「公然猥褻(刑法一九四条)」ノ犯行トシテハ(イ)待合、芸者屋、妾宅、便所、婦人科病院、女湯附近ヲ徘徊シ、街路等ニ於テ公然目己遂情(手淫)ノ行為ヲ為スモノ、(此目的ノ為メ、前期ノ箇所デ隙間ヨリ覗キ込ムヲ「ノゾキ」ト称セラル)(ロ)活動写真館或ハ縁日等ノ人込ミ中ニ於テ、妙齢ノ婦人ノ身体ニ接触シ、自己遂情ノ行為ヲ行 フモノ、(ハ)婦人ノ通行スル路傍ニ立チテ陰部ヲ露出スルモノ、(ニ)雑踏セル群衆中ニ於テ婦人ノ身体ニ接触シ竊ニ手ヲ其婦入ノ懐中ニ挿入シテ乳ヲ弄ビ、又ハ局部ニ挿入スルモノ(所謂「チクリ」「×ナリ」)(ホ)公園或ハ墓地又ハ暗キ街路等ニ於テ、野合、鶏姦スルモノヲ普通ニ表ハル、醜現象トス

強制猥褻(刑法一七六条)ノ犯罪トシテハ実際吾人ノ知ル所ハ彼ノ強制鶏姦ニアリ、鶏姦(「ヲカマ」「イチ」「キリハ」「ハウカムリ」「エチ」。エス」)ハ、人倫ニ戻ル野蛮ノ遺風タルハ言ヲ俟タサレトモ、現今尚地方ノ中学生間等ニ於テ、屡々問題トナルハ嘆ズベシ」

警察官たる者は、斯かる陋醜事に対しても、常に其注意を怠るべからざる任務を有すと知るべし